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2013年9月10日 (火)

ヒルガオ(見直して欲しい万葉のトップスター)

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万葉時代、この花は貌花(かおばな)と呼ばれて持て囃されていたと言う。貌花は美しい花の総称で、花中の花、並みいる野の花の中でトップスターの扱いを受けていたと言って過言ではないだろう。それを如実に示すのが、大伴家持が婚約者の坂上大嬢(さかのうえのいらつめ)に贈ったこの歌である。

  高円の野辺の貌花面影に見えつつ妹は忘れかねつも

ちょうどその頃に強烈なライバルが現れた。薬用として中国から招来された牽牛子である。上流階層の新しいもの好き、ハイカラ好みは昔も今も変わらない、朝に開いて日が昇ると萎む儚なげな花ということで「アサガオ」と呼んで珍重され、在来のザ・貌花は「ヒルガオ」と名を変えさせられてトップスターの座から降り、唯の野の花として歌に詠まれることも少なくなってしまった。
近世になって、この花に注目したのは、意外や意外、情熱の歌人与謝野晶子である。 

 ひるがほは何処に見ても我が脱ぎし衣と覚えてあわれなつかし
 遠方のものの声より覚束なみどりの中のひるがほの花
 あわれともあじけなしとも恋しとも言いたげなりやひるがほの花
 木の下に雨を覗けりなつかしき爪の色なるひるがほの花

晶子はヒルガオにアメフリバナの異名のある事を知っていたのだろうか。祇園の夜桜を詠ったような華麗な妖艶さはないにしても、可憐な中にどことなく色っぽさを秘めたヒルガオの風情を詠み込んだ秀歌としてかねかね愛唱している。 ともあれ、ヒルガオはもう一度見直していただきたい身近な野の花の一つである。

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