キリ(鳳凰が止まった高貴な木)
古来、桐は鳳凰が来て止まる木とされ、皇室では菊に次ぐ紋章が「五七の桐」だし、明治神宮の神紋、醍醐寺の寺紋、足利尊氏や豊臣秀吉が朝廷から賜った家紋、古老が自慢げに見せてくれた金鵄勲章は桐の箱に入れられ、箱にも桐の紋章が刻印されていたように記憶している。 パスポートにも日本政府の象徴として桐の紋が使われていたし、500円硬貨では現役である。 花札の桐の紋様も忘れられない。
桐材は日本一軽くて、丈夫で、湿気にも火気にも強いと言う特性があって、戦前は殊のほか重用された。 家庭生活でも、座敷には祖母が嫁入りの際に持ってきたと言う古色蒼然とした桐箪笥が、母のそれと肩を並べていたし、桐の火桶・琴の胴・木目込み人形・茶道具・指輪や帯締めの小箱など、大事なものには全部桐が使われ、下世話なところでは、よそ行きの下駄は桐材だった。
女の子が生まれると、桐の木を植えて、お嫁に行くときに、その木を切って箪笥を作ると言う習慣は、何時頃まで続いていたのだろうか。
京都に桐材だけを扱う材木店の当主と親しくさせていただいたが、「戦後、関西では上質の材が少なくなり、南部や会津から仕入れているが、いつまで続くことやら・・・、お手上げですわ」と嘆いておられたが、いまでは南米・中国・東南アジアからの輸入に依存しているらしい。
そう言えば、五月晴れの空に鯉幟が泳ぎ、裏山の山裾を薄紫に染めて咲くキリの花の風情も見られなくなって久しい。
昨日、万博公園の外周道路を散歩していて、空き地の若いキリの木が花をつけているのを見掛けて撮影した。花は僅か数輪だったが、凛として美しく、高貴の木の名残をとどめているように思えた。
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