カクレミノ(池波正太郎の剣客商売「隠れ蓑」)
ストーリー・テラー池波正太郎の面目が躍如といった感じの佳作で、諸国をさすらう盲目の剣士と老僧が、実は仇同士で、打つ側の剣士が打たれる側の老僧の介護を受けつつ、28年の長きに亘って道行を続けるという、人知を超えた不思議な絆と人の世の哀歓を描く。
仇と名乗らぬまま、老僧が剣士の死を見送るラスト・シーンで、荒れ放題の古寺の前庭に1本のカクレミノの木が淡黄色の小さな花を咲かせている。 これを見つけた秋山小兵衛が、倅の大治郎に呟く、
「あの木のことよ、人はそう呼んでいる」、「ははぁ」
「あの花が咲くと、間もなく暑い夏がやってくるのじゃ」
カクレミノは不思議な植物で、芽生えの頃は円い葉をつけるが、成長するにつれて葉が5裂・3裂・2裂し、花を咲かせる頃になると上部の葉はまた円くなり、下部の葉は2~5裂のままなので、「グー・チョキ・パーの木」とも呼ばれる。一部の学者によれば、日照と深い関係があり、相対照度が30%以上では日の光を確保するため葉は円くなり、30%以下では資源を節約して葉の面積を減らす目的で葉が裂けるのだと言うから、実に「せこい」木なのである。
今年も暑いさなかにカクレミノの花が咲いた。
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