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2006年1月28日 (土)

ムクノキ(歴史を見続けた椋の大木)

mukunoki 京都御所の南西角に、このムクノキは聳えていて、推定樹齢は300年、幹周り5・15m、全国のムクノキのランキングで15位と言う老木だが、樹勢は未だに極めて旺盛である。

この木とは古い馴染みで、音楽に夢中になっていた頃は、京都府立会館(アルティ)での演奏会の待ち時間を、この木の根元で軽食をとって過ごしたことも多く、散策の途中に夏の日差しを避けて涼をとり、秋の実の熟する頃にはバード・ウオッチングを楽しんだが、そんな些細な個人的な回顧よりも、この木が、蛤御門に近く、紫震殿の南西角という御所内の交通の要衝に当たる清水谷家(公家)の庭園に植えられて以来300年、どれだけ多くの歴史的な事件を見続けてきたかと言うことを述べなければなるまい。

西暦1,700年は、赤穂義士が討入りを果たした元禄13年に当たり、1,708年の京都の大火で禁裏・仙洞御所が全焼しているので、この木は、その直後に植えられた可能性が高い。 以降江戸幕府は年を追って衰退し、幕末に至るまで世情は混乱を極め、尊皇攘夷の大嵐が吹き荒れた間に、どれだけ多くの大宮人が、この木の下を右往左往したことだろうか。

禁門の変は、元治元年(1、866年)で、蛤御門を守護する薩軍の陣に、長州軍が雪崩れ込み、大乱戦の末長州軍は敗退したが、指揮官の来島又兵衛は、このムクノキの下で自刃したと言う。

また、この木が、真横に見える大文字山の「送り火」を300回も眺めてきたことを思うにつけても、木の寿命に比べて人の命の儚さを嘆かざるを得ない。

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2006年1月23日 (月)

ロウバイ(物言わぬ我が友)

roubai ロウバイは、その名の通り蝋月(旧暦12月)には満開になるが、昨年来の寒波で例年よりも開花が1週間程遅れた。

私には気に入った木を友人と看做す妙な性癖があり、若い頃から続けてきた結果、国内から海外まで、人間よりも多いくらいの「物言わぬ友」を持つ羽目になってしまった。 中には京都御所の大イチョウやムクノキの大樹、根尾の薄墨のサクラなど天然記念物級の超大物もいるが、たいていはハイキングや散歩の途中で出会った平凡な木が多く、このロウバイなども、その中の1本である。

自宅近くのマンションの前庭にあり、知り合ってから優に20年を超える。 時々ご無沙汰訪問するこの木の背丈は、当初、私と同じ位だったのに、持ち主が剪定など一切なさらないものだから、伸び放題に伸びて、今では5mを超える大木になってしまった。日当たりの良いところに生えているので、花つきは抜群、中国原産の花木に共通する芳香が辺り一面に漂って、この木の下にいると、いっときこの世の憂さを忘れさせてくれる感じがする。 

家主さんにご挨拶して撮影していると、「一枝切って差し上げましょうか」と言ってくださったが、まさか、年来の友の手足を切り取っていただく訳にゆかないので、丁重にお断りして帰ってきた。

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2006年1月20日 (金)

ヤツデ(冬の昆虫を集める濃い蜜)

yatude ヤツデは、日本の特産種で、冬中、天狗の団扇(うちわ)に似た、大きくて艶やかな葉をつけているので、欧米でも高い評価を受けて、庭園などに広く栽培されているが、花も面白い。

花は11月~1月に咲く。

雌雄異花で、雄花は花粉の生産と散布に専念するだけだが、両性花が変わっている。

先に雄しべが成熟するのと平行してyatude 濃い蜜を出して昆虫を誘うが、その蜜が凄く、真冬の極端に少ない昆虫を集めるために必要なのだろうが、その糖度が50%(普通の花の蜜は15~20%)を超えると言うから桁外れの甘さである。 雄しべが花粉を散布し終えた頃に、密腺は一旦生産を中止し、次に雌しべが成熟して受粉可能になると蜜腺は活動を再開する。

花粉を媒介する昆虫はこの時期までかろうじて生き残ったニホンミツバチが主で、ハエに依存することも多いらしい。

なぜヤツデは、虫媒花としては、条件が最悪の時期を選んで花を咲かせるのだろうか。ニッチ戦略だとしても、極端に過ぎるように思われる。

ところで、ヤツデと言われるからには、葉が手のひら状に分かれる数は八つと思われているらしいが、実際に数えて見ると、5・7・9・11の奇数で、偶数の葉は1枚もないことい気付かされる。

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2006年1月14日 (土)

イヌビワ(花と蜂の不思議な「共生」関係)

inubiwa イヌビワはイチジクの仲間で、関西なら里山の林縁などで普通に見ることのできる木なので、この写真も、自宅から歩いて3分の毎日放送テレビの構内で撮影したものである。

一見平凡に見えるこの植物が、イヌビワコバチと言う特定の小蜂によってのみ受粉・結実し、イヌビワコバチもまたイヌビワだけを食用とし、その中で一生を過ごすと言う、まさに運命共同体とも言うべき「共生」関係にあること聞いて驚かされるが、その仕組みを詳細に観察して見よう。

① イヌビワは雌雄異株で、花(胞嚢)はイチジクを小さくしたような形をしており、雄花は花   粉のみを生産し、雌の木の花には雌花が一杯詰まっていて、受粉すれば結実する。

② イヌビワコバチは雄花の中で生まれ、蛆から蛹の時期を経て成虫になるが、雄蜂には羽がなくて、一生雄花の中で暮らし、雌蜂は羽を持ち、交尾したのち、雄花の花粉を体につけて外界へ飛び立つ。

③ 雄花に出合った雌蜂は、花に潜り込んで産卵して死ぬが、雌花に入った雌蜂にはとんでもない悲劇が待ちうけている。

④ 雌花の入り口は狭くて、潜り込むときに羽を捥ぎ取られるばかりか、入り込んだ途端に入り口が閉じられて蜂は監禁状態になる。 中には雌しべの花柱が林立していて産卵する場所もないので、蜂はもがき苦しんで死ぬ。 その間にイヌビワは花粉を貰ってやっかり受粉すると言う仕組みになっている。

すなわち、イヌビワはイヌビワコバチの生活を全面的に保障し、イヌビワコバチの雌蜂は死をもって、その恩義に報いると言うことになる。 

イチジクの仲間は、すべて特定のコバチと共生関係にあるので、イチジクの果実の中に受粉を完了したイチジクコバチの死骸が残っているのではないかと懸念される向きもあるかと思うが、心配ご無用、日本の寒さではイチジクコバチは生存できないので、品種改良されたイチジクの雌木だけが栽培され、虫のない果実が出荷されているらしい。 しかし、乾燥イチジクを始め輸入されたものには、蜂の死骸があるとか、ないとか…いろいろと姦しい。

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2006年1月11日 (水)

ツルウメモドキ(冬山を飾る天然のイルミネーション)

turuumemodoki 例年、初登りは比良武奈ヶ岳と決めているが、積雪が2mを超えているうえ、頼りにしていたロープウエィが営業を中止したこともあって、体力的にも無理と判断し、今年は気軽に登れる金剛山を選んだ。

1月10日は無風・快晴、40~50cmの積雪を踏み締めて初歩きを存分に楽しんだが、冬枯れの山に、ツルウメモドキの朱赤色の実が雪に映えて美しかった。          turuumemodoki

我が国の落葉広葉樹林帯は、木の実の宝庫で、晩秋から初冬まで、色も形も様々な実が、山を歩く人々を楽しませてくれるが、中でもツルウメモドキは落葉性の蔓性木本で、地面から真っ直ぐに伸びる茎(幹)は、10~20mに達し、そこから蔓性の細い枝を四方八方に広げて最寄の雑木に纏わりつき、平素は全く目立たないのに、実が黄色く熟すと3っに割れてオレンジ色の実が露出するこの時期だけ、山を飾る天然のイルミネーションのような一種異様な景観を呈して、人の目を惹く。

黄とオレンジのコントラストが鮮やかな実と、曲がりくねった蔓の風情が好まれて、花材として「ウメモドキ」の名で生花店で売られている。

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