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2005年11月27日 (日)

サフラン(実力あるものは、さりげなく見える)

sahurann サフランは、花色も地味で、夏場の高温多湿に適応できないこともあって、我が国ではクロッカスほど著名でなく、愛好する人も少ないが、この花の歴史とハーブとしての実力を知れば驚嘆するに違いない。

有用植物として知られるようになったのは、有史以前として置こう。

旧約聖書に「芳香を放つハーブ」と記載され、インドでは仏陀の死後間もない頃に。僧衣を染めるのにサフランが使用されたと伝えられているらしい。

先ず、原産地のカシミール・イラン・インド北部で栽培されて、ヨーロッパ各地や中国へ広まった。 ギリシャ・ローマ時代は香水として愛用されたほか、薬用・染料として珍重され、食用としては、スペインのパエリア、フランスのブイヤベース、イギリスのケーキ、中国料理の香り付けなど伝統料理の食材として定着していることは周知の通りである。なにしろ、煮出したものを10万倍に希釈しても、なお黄色味が消えないというから、とんでもない植物があったものだ。

商品としての「サフラン」は、花の雌蘂の先端の真っ赤な花柱を乾燥したもので、1gを得るのに花の数3,000~5,000個を必要とし、採取するには手作業以外に方法がないと言うから、同重量の宝石と同じ価値があるとされてきた。 最近では、アロマテラピーや美容のためのハーブ・ティーがブームになっているらしい。

「真に実力のある者は、さりげなく見える」と言う人間界の諺は、花の世界でも通用するらし。

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ハナミズキ(ポピュラーになり過ぎた…)

hanamizuki 1,912年(大正元年)、時の東京市長尾崎行雄氏がワシントンにサクラの樹を贈った返礼として、米国からハナミズキが送られて来たエピソドは余りにも有名だが、その一部が日比谷公園に植えられていると聞いて、わざわざ見に行った記憶がある。

ハナミズキが、どこででも見られるようになったのは、バブル期の開発ブームと無縁ではない。 北アメリカ東部の原産で、日本のサクラ同様、アメリカ合衆国を象徴する花木だが、強壮で土地を選ばず、手入れを省いても樹形が乱れない長所を買われて、公園・公共施設の庭園から街路樹、個人の庭まで、至る所に植えられて、花時になると、あちらにもハナミズキ、こちらにもハナミズキと言う有様である。

いささか、ポピュラーになり過ぎた。

戦後の庶民住宅のシンボル・ツリーは「見越しの松」だったが、公害と病害虫に弱いと言うことで、コウヤマキがとって代わり、住宅が洋風になるとハナミズキが相応しいとされるなど、庭木一つを見ても、生活スタイルの変化が激し過ぎることに気付かされる。

本来、ハナミズキは、花と赤い実と秋の紅葉が美しいとされているのに、安直に植えられて、手入れもされずに放置された樹は、花は咲くが、実は少なく、葉も紅葉する前に茶色になって落葉する。

きれいな実と紅葉の写真を撮りたくて、散々探し回って出合ったのが、近所の小公園の片隅に放置されて、のびのびと育っているこの樹だった。

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ヤブコウジ(日本で一番小さい木)

yabukouji 日本で一番小さい木は、高山ではチングルマ・ウラシマツツジ、亞高山ではゴゼンタチバナ、里山ではヤブコウジだろうか。

しかし、この小さな木の強かな生き残り戦略には驚かされる。

樹高僅か10cm内外だが、掘って見ると地下茎(幹と言うべきか)が縦横に張り巡らされていて、総延長がどれほどになるのか、見当もつかない。 その地下茎は、背の高い木に覆い被さられると、日の当たる方向へ真っ直ぐに伸び、好適地に達すると、そこで四方八方に分枝して、大きな群落を形成するが、日の当たらない場所でtabukoui は、花も咲かせず、実もつけず、生育条件が良くなるまで、ひらすらに待つ。

地下茎・茎とも強靭で、ちょっと引っ張ったくらいで千切れることはないが、道路工事や崖崩れなどで寸断されると、それぞれの断片が根を下ろして活着するしぶとさがある。

平安時代からヤマタチバナの名で宮廷行事などに使われてきたが、江戸時代にはブームが起きて変わり葉など多数の品種が作出されたほか、気管支炎の妙薬とされてきた。

最近は、「苔玉」の素材として、若い女性にも人気があるらしい。

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2005年11月24日 (木)

ツルアリドオシ(万両・千両・百両・・・一両)

turuaridoosi  昔から、赤い実は縁起が良いとされてきて、万両・千両が珍重されてきたが、同じことなら1両までをセットで楽しもうと言うことで、百両(カラタチバナ)・十両(ヤブコウジ)と揃えたが、一両で行き詰まった。 そこは洒落っ気の多い江戸の庶民のこととて、あれこれ物色してアリドオシに目をつけ、「万両・千両・・・有り通し・・・」と語呂を合わせて、無理やり「一両」に仕立てあげてしまった。

しかし、ご存知の通り、アリドオシは高さが60~100cmに達する小低木で、枝には蟻を刺し通すという鋭い棘もあって、イメージが悪く、背丈10cm内外のヤブコウジとの釣り合いも良くないとの異論がでた。

それならばヤブコウジよりも背が低くて、1個ずつ実を付けるツルアリドオシの方が相応しいと言い出す者もあって、今では両者ともに「一両」と呼び慣わしているらしい。      turuaridoosi

このツルアリドオシは一風変わった植物で、花は必ず二つ並んで咲き、花の根元は連なっている。 二つの花は受粉すると合体して一つの果実(偽果と言う)となり、秋には真っ赤に熟す。 実(写真左上)を良く見ると、臍(ヘソ)が二つ見えるが、これは二つの花の痕跡なのである。

11月22日に、山の仲間と高野町石道を180丁目から逆行して、途中丹生都比売神社に寄り道して二つ鳥居まで歩いたが、世界文化遺産に登録されて以来、道路も格段に整備されていて、快い紅葉ハイキングを楽しむことができたうえ、沿道に点々と実をつけたサネカズラ(美男蔓)・ナンテン(難を転じる)・ムラサキシキブ(紫式部)・ヤブコウジ(十両)・ツルアリドオシ(一両)など縁起の良い木の実・草の実にであうことができた。

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2005年11月18日 (金)

ツバキ(超早咲き椿の「西王母」)

seioubo 我が家の狭い坪庭で、唯一自慢できるものがあるとすれば、この超早咲き椿の「西王母」である。 昨年は10月29日に、今年は11月5日に初花が咲いて、今日11月18日現在60花が賑やかに研を競っている。

「西王母」は、幕末の頃に金沢で作出され、「加賀侘助」の自然実生だといわれているが確たる証拠はないらしい。                seioubo

そもそも、「西王母」は東王父と対象にされる中国の仙女で、道教では最高神の后で、崑崙山脈の西の果てに棲み、3千年に一度実が成り、その実を食べると不老長寿を得ると言う聖なる桃園を管理していると言う。(西遊記の孫悟空がこの桃園を荒らして、懲罰を受けた)

その仙女のように美しいから、この名が付いたと思っていたが、さにあらず、この花の蕾が「桃の実」に似ているからだと言う。 花の地は薄桃色で、外弁に紅色のぼかしが入る一重咲きで、花の中心の黄金色の葯との対比が、なんとも豊かな感じがして、心が和む。

やがて寒気が南下してくれば、この花にメジロが集まって、賑やかに囀りながら蜜を吸うが、その日を家内と二人で1日千秋の思いで、待ちわびわびている。

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コウヤボウキ(草のように見えて草でない)

kouyabouki 昔、高野山には厳しい戒律があって、梨・桃・胡桃・竹などの持ち込みや栽培が許されなかったので、竹箒を作ることができず、代わりにコウヤボウキを刈り集めて箒を作り、仏さまの身拭いに使ったところから、この名が付いたといわれている。

「本当かな」と疑う人も多いだろうが、この種の話は素直に聞いて置くに越したことはない。

茎(樹幹と言うには違和感がある)が僅か0・5~1mmで、背丈が50~60cm。一見草としか思えないのに、れっきとした落葉低木だと教えられて驚く。 キク科の植物は、日本で一番勢力が強いグループだが、殆どが1年草または多年草で、木の部類に入るのはコウヤボウキ属の2種とハマギクの僅か3種類だけである。

(ハワイには大木になるキク科の植物があるらしい)

関東以西の乾燥した里山に多く、クローズ・アップで撮影してみると、ペーパー・フラワーに似た不思議な雰囲気を持っている。

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2005年11月 7日 (月)

コセンダングサ(種子の愛称は「クッツキモンモン」)

kosenndanngusa 人の衣服や動物の毛などに付いて散布される植物の種子を、関西では「ヒッツキムシ」、関東では「クッツキムシ」あるいは「クッツキモンモン」の愛称で呼ぶ。

都会の空き地や近郊の田畑の畦に生えるコセンダングサもその一つで、散歩の途中でズボンの裾にくっつけて帰り、よく家内に叱られる。

写真で見る通り、種子の先端は三叉に分かれた芒(ノギ)があり、それに逆向きの棘が生えているという念の入った細工が施されているので、一寸引っ張る位でkosenndanngusa は容易に取ることは出来ない。

熱帯アメリカが原産地だと言われているが、人や獣にくっついて運んで貰うという単純な戦略一つで世界中に広がり、全世界の人々に嫌がられているが、種子が逆光を浴びて輝く様子は、小さな花火が空一杯に打ち上げられたようで、それなりに美しい。

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2005年11月 6日 (日)

クコ(久米の仙人の長寿の秘薬)

kuko クコの効用は抜群で、久米の仙人がこの実を食べて186歳の長寿を保ち、老いてなお精力絶倫で、雲に乗って散歩中、川で洗濯をしている下女の白い脹脛(ふくらはぎ)を見て墜落したと言う逸話が残っている。

中国では不老長寿の妙薬として「詩経」「神農本草経」にも記載されており、我が国でも平安朝以降愛用されて、江戸時代の貝原益軒は「大和本草」で、「クコは最高の妙薬」と称えているが、最近になって発毛効果があることが解り、再び脚光を浴びている。                                                 kuko

薬効はともかく、私は中華料理の食材として親しい。

神戸に勤務中に、親しくなった小さな中国料理店の老夫婦が、クコは体にいいと言い、「不老長寿」「精力抜群」「疲労回復」「夫婦円満」と、効能をたどたどしい日本語で呪文のように唱えながら、真っ赤なクコの実が一杯入った「金華ハム入り炒飯」をつくってくれたことを思い出す。

クコは実が熟す頃に花が咲くと言う珍しい植物である。

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リュウノウギク(里山で生き残れ)

ryuunougiku リュウノウギクとノジギクは良く似ているが、前者は山野に、後者は海岸地帯に住み分けているので、混同することはない。純白の花は清楚で美しい。

葉を揉むと菊特有の強い香りがして、それが「竜脳」に似るというので、この名が付けられたと言う。

里山で親しいリュウノウギクやアワコガネギク・ヤクシソウなど野生の小菊が急速に姿を消しているが、それは、圃場整備や河川の護岸工事が進んで、川の小魚やウナギ・カワガニなどが姿を消したのと規を一にして、殆ど同時進行の形で進んでいるらしい。 日当たりの良い山野、特に道路沿いの崖などを生育場所にしていたこれらの山野草にとって林道は拡幅されて側道が削られたり、コンクリートで固められて、生活圏が失われたことが、致命傷になっているようだ。 里山の下刈りがなくなったことが、それに拍車を掛けているらしい。

ノジギクが兵庫県の県花として脚光を浴び公園などに植えられて繁栄を誇っているのに比して、リュウノウギクを省みる人が少ないのが残念だが、野生の花は野生の花らしく、「人手を借りずに生き残れ」と応援してやりたい。

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2005年11月 5日 (土)

サルトリイバラ(里山の秋を楽しむ)

sarutoriibara 花の友H氏の比良山麓北小松山荘で半日を過ごした。心臓にICDと言うショック・アブソーバーを装着したH氏は、もはや山に登ることが困難なので、二人で山荘の狭い芝生に椅子とテーブルを持ち出して、秋の陽を浴びながらコーヒーを啜り、雑談を交わす。

「比良山麓の花マップを作りたいね」「花の写真と雑文を組み合わせて画文集に纏めるか…」など、夢は広がるが、いつ着手するのやら、いつ完成するのやら・・・、飽きればH氏はゴルsarutoriibara フのアプローチ、私はカメラを担いで近所の野草を撮影する。

初夏には浅緑色だった山荘内のサルトリイバラの実が真っ赤に熟れた。強靭な蔓と棘で敏捷な猿をも捕らえると言うのでサルトリイバラと名付けられたが、猿よりも人間様の方が引っ掛かり易く、「藪こぎ」で蔓に絡みつかれ悪戦苦闘を余儀なくされた山男は多い筈である。

最近は、この赤い実を乾燥させリースなどに加工して楽しむご婦人も多いらしいが、ホワイト・リカに漬け込むとピンクのサルトリイバラ酒が できる。

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