エゴノキ(トトロの里の思い出)
平地では、とっくに咲き終わったエゴノキが六甲の摩耶山では満開で、登山路には落花が雪のように散っていた。 白くて清楚なエゴノキの花は郷愁を誘う花である。
昭和40年代の半ばに東京へ転勤になって西武池袋線沿線の清瀬に住んだが、当時の清瀬には、アニメ界の巨匠宮崎駿が描く「隣のトトロ」さながらの武蔵野の面影を残す雑木林が、そこここに散在して、春ともなれば林縁にヒトシシズカやタチツボスミレはひっそりと咲き始め、林の木々の芽が膨らむと同時に、北の斜面にカタクリが咲き揃い、クサボケが朱色の花を、イカリソウがピンクの花を咲かせる頃、林の下は花達の競演の舞台と化した。花が終わると雑木林は一斉に葉を延べ、鎮守の森のクスが新緑に衣替えするのと期を一にしてエゴノキが白い花を咲かせる。社宅の裏手がエゴノキの林で、枝一杯に咲いた花が風に吹かれて、ボタン雪が散るように舞い落ちる風景を未だに忘れることができない。
やがて、東京の郊外は土地乱開発の嵐に見舞われて、のどやかだった雑木林が一瞬にして宅地に変わるという、アニメ「平成ぽんぽこ狸」の時代に突入して行く。
エゴノキの花を見る度に、「あれが最後の武蔵野の風景だった」と言う郷愁にも似た懐かしさが甦る一方、かろうじてその終焉に立ち会うことが出来たのを、喜ぶべきか、悲しむべきか、複雑な思いに駆られるのである。
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