トップページ | 2005年6月 »

2005年5月30日 (月)

ニワフジ(英名は器量の良いインディゴ)

iwahuji 東海自然歩道を嵐山から清滝へ、高雄・栂ノ尾を経由して、北山杉が整然と林立すろ菩提道に入り光悦寺に差し掛かった時に、民家近くの古い石垣で見事なニワフジ(イワフジ)の群落に出合った。

樹高僅か50~60cmの小低木だが叢生して横に広がり、緑の葉の間にフジに似た10cm内外の花房を垂らし、紅紫色の花が美しい。本州(中部・近畿)・四国・九州の川岸や渓谷の岩場などに自生しているが、今日のように民家近くで見掛ける場合は、栽培されていたものが逃げ出したと思われる。時に白花も見掛ける。

イギリスに輸出されて、好事家の間で「器量の良いインディゴ」とか「シナのインディゴ」と呼ばれて、ロックガーデンや庭園の生垣などに仕立てられて愛好されていると言う。有名なプラント・ハンターのフォーチューンが上海で見付けてヨーロッパに送ったため、中国が原産とされているようだが、上海辺りには自生種が見当たらないので、今では日本から中国に渡ったものが再輸出された可能性が高いと推測されている。

ニワフジと言うのが正式名らしいが、園芸業者が盆栽仕立てにしたり、寺院や日本庭園の石組みに植え込む場合には、イワフジと呼ぶ事が多い。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005年5月29日 (日)

ヤマボウシ(可愛らしい山の荒法師)

yaabousi 銀行員時代に京都の洛北地区の外周りを担当してスクーターで走り回っていた頃、大原寂光院庵主の小松智光尼に親しくしていただき、訪問する度にお茶のおもてなしを受けていたが、5月半ばの或る日、床に白い花が品良く活けてあったので名をお伺いすると、「お花の中心を僧の頭に、4枚の弁を法衣にみたててヤマボウシと言いますが、叡山の荒法師には似つかわしくない可愛い花ですね」と答えていただいたき、それ以来この花のファンになった事が懐かしく思い出される。あれから50年の月日が経ち、その後に消失した本堂は再建されたが、テレビで拝見する限り智光尼もお年を召された。

最近北米原産のハナミズキが幅を利かせて公園・街路樹から一般家庭の庭木に至るまで「猫も杓子もハナミズキ」だが、どうして一見派手なハナミズキよりも、清楚で雅趣に富むヤマボウシが疎遠にされるのか、いささか心外である。もしも、白一色でもの足りないと言うなら、最近出回ってきたベニバナヤマボウシをお勧めしたい。

ところで、ヤマボウシの実が食べられることをご存知だろうか。イチゴに似た真っ赤な集合果には、ほんのりとした香りもあるので、山の仲間は、「山のイチゴ」などと称して密かに楽しんでいるのだが・・・。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

ウノハナ(卯の花をかざしに関の晴れ着かな)

unohana 古人はウノハナをこよなく愛して、旧暦の4月を卯月と言い習わし、この月の曇天を「卯の花曇り(卯月曇り)、梅雨の走りの雨を「卯の花腐し(くたし)」と言ったらしい。 豆腐のおからを「卯の花」、おからの和え物を「卯の花和え」と称し、己が家の庭に小鳥を呼び込むために競って垣根にウノハナを植えたところから、「卯の花の匂う垣根にホトトギス早も来啼きて、忍び音もらす夏は来ぬ」と言う、佐々木信綱作詩、小山作之助作曲の大正時代の名曲が生まれたが、万葉集には、ウノハナとホトトギスを組み合わせた歌が20首以上あるというから、日本人のウノハナ好きは半端ではなく、欧米人のライラック(リラ)好きに匹敵するのではないだろうか。

万博日本庭園で、この花を撮影している最中にふと、

  卯の花をかざしに関の晴れ着かな  芭蕉

と言う句が浮かび、呪文のように繰り返し繰り返し唱えながら、カメラのシャッターを切っていたが、いまさらながら芭蕉の感性の新しさに気づかされたような気がして嬉しかった。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

ノビル(その奇抜な花の形と繁殖方法)

nobiru ユリ科ネギ属には、ネギ・ニラ・ワケギ・ニンニク・ラッキョウ・タマネギなど野菜化されたもののほかに、野生のアサツキ・ヤマラッキョウ・ギョウジャニンニクなどが山菜として珍重されているが、中でもノビルは、古事記に応神天皇の御製として、「いざ子ども、野蒜摘みに、蒜摘みに・・・」と言う歌が記載されるほど古典的な野草で、葉が柔らかい早春の頃に、白い根茎と共に掘りあげて、ワケギと同様にヌタにして食べると実に美味しいし、生のまま味噌を塗って齧るのも乙なもので、都会でも容易に入手できろ山菜の中では、極めつけの一品と言って差し支えあるまい。

このノビルは、花と繁殖方法が奇抜なことでも知られている。

晩春の頃、1株から1本の花茎がするすると伸び出して、頂上に球形の花序(花の集団)を膨らませる。始めはアヒルの嘴のような形で、膜に包まれており、膜がとれて蕾が全部開くとネギ坊主のようになるが、淡紅紫色の花になるよりも、蕾が変身して小芽球(ムカゴ)に変わるものが圧倒的に多く、中には写真で見る通り、茎頂についたままで発芽するものもある。そのユニークな形を見てやっていただきたい。

花茎が枯れると、そのまま下に落ちて、その場に住み着くので、畑の畦などで大群落を形成している事が多い。 ノビルは花ー受粉ー結実ー散布の全行程を省略しながらも、確実に子孫を残す強かな省エネ植物なのである。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

ラショウモンカズラ(切り落とされた鬼の片腕)

rasyoummonnkazura 平成17年5月14日、世界文化遺産に指定された高野町石道180丁(22km)を7時間掛けて踏破した。高野山の開祖弘法大師が母の住む九度山の慈尊院を訪ねて、夜毎往復したと伝えられる道で、「高野7口」の一つとして和歌山から高野山に参る人々が歩いた遍路道でもある。一丁毎に、道標の町石が建てられているところから、「町石道」といわれるが、そのスタート地点に当たる「1町石」の辺りでラショウモンカズラが大きな群落を作って咲いているのが印象に残った。

「なぜ、ラショウモンカズラと言うの」と聞かれる事が多い。やや煩雑になるが、その由来を探ると、平安時代中期に大江山の鬼退治で名高い源頼光の四天王の一人渡辺綱が、夜な夜な羅生門に出没する鬼を捕らえてその腕を切り落とした。鬼は悔しがって「その腕を7日間お前に預けるが、必ず取り戻す」と言って逃げた。果たせるかな7日目に渡辺綱の伯母と称する老婆が訪ねてきたので、その腕を見せたところ、たちまち鬼の正体を現し、己の腕を取り返して逃げ去ったと言う。

写真で見る通り、暗紫色の花筒の先に白い毛が生えた形が、羅生門で切り落とされた鬼の腕に見えなくもないが、余程故事に詳しい人でも、すんなりと納得するのは難しいのではないだろうか。暗い樹下で咲くこのシソ科中最大の花を、不気味と見るか、美しいと見るかは、その人の感性に委ねるよりほかあるまい。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

モチツツジ(分水嶺を越える花)

motitutuji 谷中中央分水嶺をご存知だろうか。

JR福知山線の福知山駅から南へ4番目の石生駅の近く、国道175号線(明石~舞鶴)と176号線(大阪~宮津)の交差点の真ん中は、標高95・55m、太平洋と日本海を分ける日本で一番低い分水嶺で、ここに降る雨は1mmでも南に偏れば加古川を経て瀬戸内海(太平洋)に注ぎ、1mmでも北に降れば由良川となって日本海へ流れ込むことになる。

95mと言えば、海水面が100m上昇すれば、日本列島がここから東西に2分されることになる訳だが、この地形を氷上回廊と呼び、日本が再三に亘って氷河に覆われた際に、氷河の消長に伴って、モチツツジ・アカメガシ・ヤマモモなどの暖地性植物が、この回廊を通って北へ進出したり、南へ逃げ戻ったりしたと言う。

コバノミツバツツジほど華やかではないが、関西の里山ではどこででも見られ、私の住む吹田市でも家から3分ほど歩けば出合えるモチツツジは、案外分布域が狭くて、東は静岡県、西は岡山県の旭川東岸までの太平洋側に生えるが、特に雪に弱いらしくて、日本海側では全くと言ってよいほど見掛けないのに、唯一由良川の沿岸にだけは上流から日本海にいたるまで連続して分布する理由が、この地方に雪が少ないのと、この低い分水嶺に因るというから、一寸面白い話として披露させていただく。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

メキシコマンネングサ(ビルの屋上緑化のエース植物)

mekisikomannnenngusa  メキシコマンネングサが花時を迎えると、素っ気なかった都会の路地や空き地や放置された植木鉢の中までが、黄金の絨毯を敷き詰めたように、花で覆われる。

セダム(sedum)属の植物は、わが国でもオノマンネングサ・マルバマンネングサ・ヒメレンゲ・キリンソウなど数多く産するが、メキシコマンネングサは茎が放射状に枝分れして、そこに星型の花を無数につけるので、一番派手で見栄えがする。メキシコの名が冠せられているに拘わらず原産地が不明のこの植物が、「低管理薄層緑化植物」と言ういかめしい名前を付けられて、「セダム工法」と称する都市の屋上緑化のエース植物なっていると言うから驚かされる。

私ども大阪の住人は、ヒートアイランド現象の被害をまともに受けて、日本一寝苦しい夏の夜を過ごしていることはご承知の通りで、これを緩和するための条例が制定されて、ビルの屋上緑化が義務付けられたが、これには膨大な人手と経費が必要とされる。そこで着目されたのがこのメキシコマンネングサである。 なにしろ、悪環境には滅法強い「耐暑・耐寒・耐乾・耐湿植物」で、屋上に僅か数cmの土壌を敷いて植え付け、1年に2回ほど施肥し、時々散水するだけ(この環境では他の雑草も生えないから除草の必要もない)でよいらしい。

沖縄には、真ん中をくぼませて、そこにこの草を植える瓦があるというから、そのうち「草とハサミは使いよう」と言う新しい諺が生まれるかも知れない。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

ウワミズザクラ(サクラに似ていないサクラの木)

uwamizuzakura 緑の葉を繁らせた枝の先端に、総状花序(穂状)の白い花をつけているこの木を見て、バラ科サクラ属のれっきとしたサクラだと言われても、クビを傾げる人が多いのではないだろうか。繁みの中でこの花に出合うと、線香花火の白い火花が四方八方に飛び散っているような印象を受ける。 

ウワミズザクラと言う名も奇異に感じる。別名を「ハハカ=波波迦(朱桜)」と言い、この材の上面に溝を彫り、火に投じてできる亀裂の模様を見て吉凶を占う「亀甲占い」に似た神事に使ったので、はじめは「ウワミゾザクラ」と呼んだのが訛って「ウワミズザクラ」になったと言う。やや「眉唾」に聞こえるが、この神事は対馬列島でつい最近まで行われていたらしい。

古事記には高天原に生える植物として、「天の日影=ヒカゲノカズラ」・「天の真析=マサキ」と共に「天の朱桜=ハハカ(ウワミズザクラ)」の記載がある。

材が極めて硬いので金剛桜とも言い、浮世絵の版木として珍重されたらしい。秋には赤くて可愛い実をつけるので、欧米では Japanese Bird Cherry と言うすっきりした判り易い名前で呼ばれ、公園樹として植えられることが多いと聞く。青い実の果実酒「杏仁酒」は不老長寿の妙薬だとされていて、西遊記の三蔵法師が旅の途中で、この実を捜したと言う伝説があるらしいが、悟り済ました筈の高僧が不老長寿を求めて右往左往する話の方が、余程「眉唾」に思われる。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アオダモ(ゴジラ・イチローのバットの素材)

aodamo こんなに可愛い花を咲かせる木が、松井秀喜やイチローのアメリカ大リーグでの活躍を支えるバットの素材になると聞いたら、驚く方も多いのではないだろうか。野球のバットに関する雑学を披露させていただこう。

現在わが国で野球のバットに使用される木は、次の通りである。

① アオダモ 硬式野球(主としてプロ・社会人・大学野球は国産材、一般は中国輸入材)

② ヤチダモ 軟式野球

③ ホオノキ 小年野球・ノックバット

④ センノキ ソフトボール・軟式野球

アメリカ大リーグでは、アオダモと同属のホワイト・アッシュ材を使用するが、反発性ではアオダモに優り、耐久性ではアオダモが優って甲乙付け難いと言われている。アオダモは非常に成長の遅い木で、ゴジラ・イチロー級のプロのバットに使用される木は、樹齢70年前後で、しかも1,000本の角材から僅か1ダース程が選び出されて加工されると聞いたことがある。最近では資源が枯渇したため、特定非営利法人(NPO)アオダモ資源育成の会が認可されて、北海道を中心に植樹が始まったらしいが、成果が挙がるのは50~70年先だと言うから気が遠くなる。

比良山の山麓を真っ白に埋めて咲くアオダモだが、成長が遅いために、この地では、他の木が覆い被さって大木になる前に、殆ど枯死してしまうらしい。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

トップページ | 2005年6月 »